先月後半、WWEから、『The Spectacular Legacy of the AWA』というDVDセットがリリースされた。1960年から1991年にかけて活動していたAWA (アメリカン・レスリング・アソシエーション)という団体のドキュメンタリーだ。
アメリカとカナダのプロレスは、1980年代まで、各地区でプロモーターがそれぞれプロレス団体を運営し、他地区には侵攻しないというテリトリー制になっていた。AWAはミネアポリスを中心に、ミルウォーキー、シカゴ、デンバー、ラスベガス、サンフランシスコといった、中西部から西海岸に亘る広域を牛耳っていた。
だが、1980年代に入り、ケーブルテレビが普及すると、特定の団体の全米中継も可能になり、その中でもニューヨークを中心とする北東部で活動していたWWF (現WWE)は、テリトリー制を無視し、他地区に乗り込み、AWAから多くの選手を引き抜いた。選手大量離脱に加え、最終的にはミネソタ州が、AWAオーナーのバーン・ガニアに対して、所有していた土地の一部から強制撤退を命じたことにより、ガニアは大きな経済的打撃を受け、AWAは1991年に閉鎖することになる。
去年、WWEは既に所有していた過去の他団体からの映像に加え、バーン・ガニアから、AWAの映像に関する全ての権利を買収し、その膨大なライブラリに加えた。
んで、そのDVDだが、多少歴史的事実に関して(意図的に?)正確ではない部分があったにせよ、全体的には、WWE側の見解だけによるプロパガンダではなく、ガニア親子や、AWAで活躍していた選手やアナウンサー達のコメントも交えた、バランスの取れたドキュメンタリーだと思う。WWEオーナーのビンス・マクマホンJr.やバーンとグレッグのガニア親子だけではなく、ラリー・ヘニングやニック・ボックウィンケルといった、かつてAWAでトップだった選手達のコメントもしっかり聞ける。試合の映像も、特に70年代以降のAWAでは、試合内容は別として、重要なものが多く収録されている(もちろん、「この試合も入れてほしかったなぁ…」という声も多いが)。
WWEによって崩壊させられたと言っても過言ではないAWAが、閉鎖から15年後、そのWWEによって日の目を見ることになるとは、多くのオールドファンにとっては皮肉な話なんだろうと思う。