NWA (ナショナル・レスリング・アライアンス)の歴史は大きく分けると、4時代ある。
- 1948年7月~1993年9月: 発足~WCW脱退
- 1993年9月~2012年8月: WCW脱退、プロ・レスリング・オーガニゼーションLLC設立~加盟団体保険制度に関する裁判に敗訴
- 2012年8月~2017年9月: インターナショナル・レスリング・コープLLC設立(ブルース・サープ)~ライトニング・ワンINC(ビリー・コーガン)への売却
- 2017年9月~現在
NWAが各地に加盟団体を持つプロレス界の国際的主要組織だったのは、事実上1950年代前半から1980年代中期までの間。
…という出だしは今回で終わり。今後は余程のことがない限り、上記『4』について書いていくことになる。おそらくこれまでほど頻繁な更新にはならないと思うが、『今尚NWAを追う』という意味では、ここからが本番なのかもしれない。
2017年5月、ロックバンド『 スマッシング・パンプキンズ』の中心人物ビリー・コーガンと、15年にも及んで米国3大プロレス団体をシナリオ作家として渡り歩いたデビッド・ラガナが設立した新会社『ライトニング・ワン』は、ブルース・サープの『インターナショナル・レスリング・コープ』から、NWAブランドの買収を発表、迷走していた時代に終止符を打つ。コーガンの知名度と資金力にラガナの創造性が加わることにより、NWAは新時代に突入した。
コーガンやラガナのインタビューによると、NWAの『再生』を焦って進める気はなく、契約予定選手は数人、2018年春に第1回を予定している自主興行も、年に数回できれば上等だと考えているらしく、それ以外は色々な他団体に選手を派遣することにより、とにかくNWAというブランドと、その世界ヘビー級王座の価値を再び上げていくことに専念したいとのこと。また、試合を含む色々な映像をインターネットで無料発信していくことにより、より多くの人々にNWAを知ってもらうという方針だ。
1993年のWCW離脱以来、NWAの体制が変わる度に世界ヘビー級王座は空位になっていたが、コーガンとラガナは買収の約半年前に王座に就いたティム・ストームを継続して認定。長年メジャーなプロレス団体で脚本家を務めてきたラガナによると、ストームが52歳というプロレスラーとしては峠を越えていてもおかしくない年齢で、尚且つ全国的には(NWAファン以外にとって)無名な選手だという事実を、ストーリー展開の題材として使わない手はないのだと言う。
2017年9月、NWAはまず手始めに、TNAと提携終了からサープ時代到来までの間のNWAで中心人物の1人だったデビッド・マルケスのチャンピオンシップ・レスリング・フロム・ハリウッド(CWFH)のテレビ中継にストームを登場させた。マルケスと前NWA社長サープのお世辞でも友好とは言えない関係を知り、現在CWFHが加盟するユナイテッド・レスリング・ネットワーク(UWN)が既にベルトまで作成し独自の世界ヘビー級王座決定トーナメント開催の準備をしていると聞いていたファン達にとっては驚くべきニュースだった。約5年ぶりにロサンゼルスのマットにNWA世界ヘビー級王者が登場したのだ。
以後、『黄金の10ポンド』と題したYouTube上のシリーズにおいて、ドキュメンタリー形式の映像を使い、なんと、ストームをあえて『未知の世界王者』として改めて多くのプロレスファンに紹介した。
11月12日には、CWFHの中継で、ストームが元TNA世界ヘビー級王者ニック・オルディス(ブルータス・マグナス)の挑戦を退ける。その後、多くの選手達がNWA王座挑戦を表明し、トミー・ドリーマーが自ら主催するハウス・オブ・ハードコア(HOH)のリング上でストームに挑戦を直談し、CWFHと同じくUWNに加盟するコンバット・ゾーン・レスリング(CZW)でも世界選手権試合の開催が発表された。
ちなみに、これを書いている時点でのNWAのYouTubeチャンネル登録者は約1万6千人。プロレス界全体を見ると、ROHの20万人やメキシコのコンセホ・ムンディアル・デ・ルチャ・リブレ(CMLL)の9万人とは比較にもならない数字だが、新日本プロレスの英語チャンネルが3万6千人、WWEと提携してNXTの2軍的扱いになっているワールド・レスリング・ネットワーク(WWN)が1万9千人だということを考えると、2017年10月に始まったばかりのチャンネルがこれだけの登録者数を持っているのは上出来ではないかと、自分は思う。いずれにせよ、サープが5年かけてできなかった、アメリカの(新日本を見ていない)ファンの間で再びNWAの知名度を上げるということを、コーガンとラガナは数ヶ月でやり遂げたのだ。ただ気になるのは、YouTubeやfacebookなどのSNSでは相当活発だが、未だウェブサイトがないということ。春の自主興行開催と同時に大きく発表するのであればいいのだが…。
新生NWAは、プロレス関連のメディアに限らず、ローリング・ストーンやスポーツ・イラストレイテッドといった世界的に有名な雑誌、ハフポスト、およびシカゴ・トリビューンやボストン・ヘラルドなどの新聞でも取り上げられ、コーガンだけではなく、ストームまでもがインタビューを受けた。コーガンとラガナの手腕により、NWAは再び全米規模の脚光を浴びることになった。
また、YouTubeでのドキュメンタリーの中で、ストームの家族や、平日は高校の歴史教師だという私生活も紹介し、「王座転落の際には引退も考えなければならないかもしれない」というコメントによってファンに危機感を持たせることにより、52歳の世界王者ストームに対する感情移入を煽った。
そんな中、ストームの抗争相手として白羽の矢が立ったのは、かつてコーガンが設立に関わったシカゴのレジスタンス・プロ・レスリング(RPW)で活躍し、現在はテネシー州周辺のインディ団体を拠点にしているジョセファスという奇怪な選手だった。