ビリー・コーガンとデビッド・ラガナの新会社『ライトニング・ワン』によって買収されたNWAは、2017年9月末を以って、全ての加盟団体との契約を終了、単独団体としての道を歩み始めた。
コーガン政権の始まった10月から4ヶ月経ったが、今のところどちらかというとプロレス団体というより、プロレスを題材にしてドキュメンタリー的な要素を含むインターネットの連載ドラマに近い。試合内容はともかく、数日毎にアップロードされる映像を通して、各選手の人気を向上させていく、…というか、ドラマやアニメ的な表現を使うと、登場人物を発展させることに長けていると思う。その上、重要な試合はネットで生中継。そうすることによって、今後のストーリー展開を待ち望むファンが増え、少しずつかもしれないが、より多くのファン達の支持を得始めているような印象を受ける。
そういうわけで、今後の『今尚NWAを追う』シリーズは、所謂『アメプロ』というジャンル、その中でもインディ系のものが好きでないと楽しめないかもしれないということを予め申し上げておく。
2017年9月、新生NWAが最初に実行したのは、ティム・ストームを『未知の世界王者』として紹介、チャンピオンシップ・レスリング・フロム・ハリウッド(CWFH)に初参戦させることだった。
ノンタイトル戦で勝利した後、元TNA世界ヘビー級王者ニック・オルディス(ブルータス・マグナス)が登場、ストームの王座に挑戦を表明した。約2ヶ月後の11月12日、CWFHの会場でストームはオルディスの挑戦を退けるが、押え込みに入る直前、ストームの片足がロープにかかっていたことを試合後にオルディスが指摘、ストームの「いつでもどこでもやってやる」の返事で、後日両者は再戦に同意した。
以後、YouTubeのシリーズによって、数ヶ月前までNWAファン以外にはほぼ無名だったストームが、米プロレス界において突如話題の選手となる。ストームの家族や、平日は高校の歴史教師だという私生活も紹介し、王座転落の際の引退の可能性でファンに危機感を持たせることにより、52歳の世界王者ストームに対する感情移入を煽った。
オルディス戦から5日後の17日、テネシー州クラークスビルでの防衛戦が組まれたが、挑戦者が発表されたのは前日のことだった。同州を中心に活躍する、これまた全国的には無名のジョセファスという奇怪な選手からのビデオレターが公開された。
NWA登場前まで、ジョセファス・ブロディというリングネームを使っていたが、その名のとおり髪も髭も長く、ラフファイトを売り物にしてきた。結局、ジョセファスはフォール負けに屈したのだが、途中ストームに目を攻撃され、「反則技で『3%』視力が落ちた」と意味不明の主張をし、再戦にこぎつける。
翌18日、ストームはテネシーからフィラデルフィアまで移動し、トミー・ドリーマー主催のハウス・オブ・グローリー(HOH)の大会に向かった。ドリーマーはリング上にストームを呼び出し挑戦を直談し、ストームも「いつでもどこでもやってやる」と返す。かつて王座決定トーナメントに優勝したシェーン・ダグラスが『過去の遺物』と言わんばかりにNWAのベルトを投げ捨てた会場に、23年ぶりにNWA世界ヘビー級王者が登場した。皮肉なことに当日は試合開始前のサイン会のため、ダグラスも会場に来ていた。またストームは2日後、デスマッチ系の試合で有名なコンバット・ゾーン・レスリング(CZW)からの挑戦も受諾した。
ストームは12月2日のCWFH大会で再びジョセファスを破るが、試合後のハシゴを使った攻撃により肋骨を負傷。結果、NWAはジョセファスに45日間の謹慎処分を下す。
1週間後の12月9日、ストームはフィラデルフィア郊外にあるニュージャージー州シーウェルでのCZWの大会に出場。リング上でマット・トレモントがストームを呼び出し挑戦を表明するが、イーサン・ページやMJF(マクスウェル・ジャコブ・ファインスタイン)らも続けて登場。挑戦者が定まらない中、なんと、1970年代から1980年代にかけて南部一帯で大活躍し、メンフィスではジェリー・ローラーやビル・ダンディに並ぶスターだったこともあるオースティン・アイドルが登場、「いつでもどこでも彼の挑戦を受けると言っただろ。それが今夜だ。」と、ニック・オルディスにこそ再戦の権利があると主張し、即試合が決定した。
だが、CZWという『場違い』とも思えるような環境の中、負傷したまま出場したストームは、わずか4分10秒で王座から転落してしまう。
あまりのあっけなさに、ファンの意見も分かれた。一部の人達は「やっと若くて将来もあるオルディスが王座を奪取してくれた。」と喜び、他の人達は、「あそこまで盛り上げたんだから、ストームにはもっといい花道を用意してあげれば良かったのに。」と嘆いた。また、「NWAのことなんてどうでもよさそうなファンが多いCZWで、それもあんな短い試合にしたのは、本当に負傷していたからじゃないのか?」という声もあった。
一方、ジョセファスは、謹慎期間中、『スピリチャル・アドバイザー』なる女性を連れてきて言った。「今、俺は『スピリチャル・アドバイザー』の助言により、『瞑想の期間』に入っている。人々は、俺の風貌が別の人間に似ているという。奴のような試合をし、奴のように叫ぶってな。奴の真似をしてるだけだって言うんだ。でも俺は『スピリチャル・アドバイザー』から助言をいただいた。俺は100%オリジナル。パクリでもなんでもない。そのブルーザー・ブロディって男のな。」
当初、多くのファンは、せっかく盛り返してきたNWAが、早速『偽ブロディ』のような無名な挑戦者を選んだことに難色を示したが、ここでもまた、度重なる映像の発信を通して披露されたその演技力がファンを引き付け、それに加えて無言だが十分存在感のある『スピリチャル・アドバイザー』の登場により、ジョセファスは(少なくともNWAにおいては)脱『超獣もどき』からサイコなキャラを確立しつつあった。
更に、引き続き『瞑想の期間』にいるというジョセファスは、王座から転落したばかりのストームに、ある提案をする。「君は僕のことを責めてるようだが、負傷しているのにCZWの会場まで行った君が悪いんだよ。僕とは何も関係ない。でも僕には『愛』ってのがある。君のことを愛しているから、『報復』という贈り物をしよう。僕と試合をさせてあげよう。ただし、日時も場所も僕が指定、そして君が持っているNWA王座の再戦権を賭けるんだ。」
当然のごとく拒否したストームに対して、ジョセファスは追い打ちをかける。「『スピリチャル・アドバイザー』から助言をいただいたんだ。せっかく君に『報復』という贈り物をしようとしたのに、君は拒否した。ならば、別の相手にこの贈り物をしよう。君がよく知ってる相手にね。」 2人が向かったのは、ストームの娘の家だった。
結局、娘一家は留守だったが(笑)、これにより、ストームはジョセファスの『提案』を受け入れる。2018年1月14日、場所は、なんと、コーガンとラガナの古巣、TNA改めインパクト・レスリングの会場『インパクトゾーン』で、実況席もレフリーも全てインパクト・レスリングから起用。それも観客なしの『エンプティ・アリーナ・マッチ』だった。
丸腰になり、更にジョセファスに負けることで王座挑戦権まで失ったストームが進退を問われる中、オースティン・アイドルをマネージャーに就けた新世界王者ニック・オルディスは、大計画を打ち出そうとしていた。
