2017年12月9日、ニュージャージー州シーウェルでのコンバット・ゾーン・レスリング(CZW)の大会中に急遽決定した試合でティム・ストームを破りNWA世界ヘビー級王座を奪取したニック・オルディスは、新しくマネージャーに就いたオースティン・アイドルと共に、2018年2月1日、『ザ・オルディス・クルセード』と銘打って、60日間で20以上の防衛戦をアメリカだけではなく、イギリスや中国でも行うことを発表した。
その『クルセード』初戦として、2月11日、チャンピオンシップ・レスリング・フロム・ハリウッド(CWFH)のカリフォルニア州ポートワイニミ大会で、昨年11月までWWE所属だったジェームス・エルスワースを軽く退けると、自ら『ナショナル・トレジャー(国宝)』を名乗り、母国イギリスに向けて旅立った。
オルディスは2008年、テレビ番組『ザ・グラジエータース』イギリス版に出演(元祖アメリカ版は日本吹替版で『激突!アメリカン筋肉バトル』、日本版は『BANG! BANG! BANG!』として放送)。そのせいか、2008年から2015年までマグナスのリングネームで活躍したTNA(現インパクト・レスリング)では、ろくに経験もない、所謂『ぽっと出』の選手だという印象を首脳陣に持たせていたらしい。
だが、TNA参戦以前に、すでに数年間の下積み時代を過ごしていたのだ。
故郷ドッキングは、イングランド東部にある、人口約1,200人いう小さな村だ。喧嘩が多く、週末には何もなくても警察がうろついているという。2003年、オルディスは、16歳でプロレスラーを目指し、リッキーとサラヤのナイト夫婦(元WWEディーヴァ王者ペイジの両親)が主宰するワールド・アソシエーション・オブ・レスリング(WAW)に入門、ドッキングでの6人タッグ戦でデビュー。その後、2007年には弱冠20歳で渡米し、ミズーリ州エルドンで行われたハーリー・レイスのWLWとプロレスリング・ノア共催のキャンプにも参加した。ちなみに現在はWWEで再び活躍中のミッキー・ジェームスと結婚。
そんなオルディスについて、前NWA世界ヘビー級王者ティム・ストームは語る。
「自分はこれまであらゆるタイプの選手達と試合をしてきた。意外だと思われるかもしれないが、A・J・スタイルズとも何度か対戦していて、彼のことはいい友人だと思ってる。だがオルディスは、他の選手達にない良いものを持っていると思う。」
今回、何故イギリスのインディ団体を周って世界王座の防衛戦をすることにしたのかという疑問に、オルディスは答える。
「これは俺だけの話じゃない。みんな、小さなとこでやりながら夢を見ている。俺が有名になる前から自分のことを信じてくれていた祖国の人達に、世界王者としての俺の姿を見せて、夢を掴むのは可能だってことを見せてやりたいんだ。」
事実、イギリスでの初戦は、2月16日、ウィドニスという人口6万人程度の町で、かつてTNAで行動を共にしたブラムが相手。そして最終戦は25日、人口3万4千人のエクスマスにて、以前ROHで活躍しノアに留学もしていたハーレム・ブラバドとの試合だった。
2月21日には、インターナショナル・プロ・レスリングUK(IPWUK)のミルトン・キーンズ大会で、米国東海岸で活躍するデビッド・スターを相手に防衛。CWFHと同じくらいかそれ以上に狭いリングだったが、試合自体はファンの間で好評を得た。
IPWUKの現在のオーナーは、かつてブルース・サープ時代に短期間ながらNWAに加盟し、脱退後自らサープにNWA買収の交渉をしたビリー・ウッドだ。
アメリカに戻って来てから最初の試合は、3月2日、ニューヨーク州ビンガムトンで、キラー・コワルスキー道場のヘッドトレーナーも務めた北東部のベテラン選手スリック・ワグナー・ブラウンとの防衛戦の予定だったが、残念ながら大雪のため中止。
翌3月3日は、イノベート・プロ・レスリングのテネシー州キングストン大会で、テネシーからケンタッキー、オハイオにかけて活躍し、OVWでは全王座を奪取した経験もある、現イノベート・プロ認定USヘビー級王者デビン・ドリスコールを相手に防衛。イノベート・プロは、AWAスーパースターズから分派したAWA(アメリカン・レスリング・アフィリエイツ)の流れを受け継ぎ、ビリー・コーガンがブルース・サープからNWAを買収するまでは、NWAスモーキーマウンテンという名称だった。リッキー・モートンの弟子で、現在新日本プロレスで活躍中のチェース・オーエンズをこの世に送り出した団体だ。
3月15・16日にはコロラド州のロッキーマウンテン・プロ・レスリングでの2連戦が予定されている。
CWFHのデビッド・マルケスだけではなく、IPWUKのビリー・ウッド、イノベート・プロのトニー・ギブンス、ロッキーマウンテン・プロのマット・イェイデンと、元NWA所属プロモーター達が、次々とコーガンと協力し、再びNWA世界選手権試合を開催しているという、皮肉かつ面白い展開になっている。
3月24日にはフィラデルフィアに向かい、かつてシェーン・ダグラスがNWAベルトを投げ捨てた会場でトミー・ドリーマーと、4月14日には中国初のNWA世界ヘビー級戦となる温州大会で同王座とは因縁深いコルト・カバナとの試合が待ち構える。
そして、今や多くのNWAファン達にとって、なくてはならない存在となった不気味な男が1人。
前王者ストームを負傷させ、王座転落の原因を作ったジョセファスもまた、オルディスが各地で防衛し続けている間、虎視眈々と世界王座挑戦を狙っている。