テキサスの思い出(10) – 毒針と松葉杖

妖鬼との遭遇

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1994年夏。我々数名のプロレスオタク共にとっては、毎週金曜夜ダラス・スポータトリアムでのGWFの興行が、プロレス観戦以上に『寄り合い』の場だった。プロレスをダシにビールを飲むといったとこだろうか。

だがその頃は少しずつ、GWFの将来が危ういという話が耳に入ってきていた。それと同時に、テッド・ターナーに団体を売却後、既に非競争条項の期間が満了していたジム・クロケット・ジュニアNWA会長がダラス在住ということもあり、GWFの後を受け継ぎ同会場で興行を再開するのではないかという噂も出始めていた。

そして9月23日。予定されていた興行がキャンセルし、とうとうGWFの閉鎖が確実となった。

数日後、自分はダラス郊外にある観戦仲間のJの家にいた。そこにはGWFで悪役マネージャーとして活躍していた高校生ブランドンもいた。

ブランドンによると、クロケットの旗揚げは既に決定で、彼自身継続出場だというんで、とりあえずみんなで喜んだ。律儀にも、参戦候補選手の一覧を自身による手書きのメモで持ってきてくれた。その中には、クリス・アダムスやトニー・ノリス、マイケル・ヘイズ、スカンドル・アクバをはじめとするダラス常連組はもちろん、なんとタリー・ブランチャードやジャンクヤード・ドッグ、グレッグ・バレンタインら、80年代に大活躍した選手達、そしてミル・マスカラスの名も入っていた。

10月29日、ついにあのクロケットが、それも再び『NWA』の名で旗揚げ。

とはいえ、最初の3、4回はアルコール飲料の販売許可が下りず、我々はビール無しで観戦するという、半ば何しにきたのか分からない状態だった。それもマスカラスは結局一度も来なかったし…。

第2回目の11月5日には、本格的にテレビ撮りが始まった。

いつもどおり会場入りした自分。初週に続き、またもや売店にはビールなし。その売店の前で、松葉杖で突っ立ってたじいさんがいて、ちょっと目が合ったが、「あれ、まさか…?」とか思ってたら、GWFの頃から常連だった小学生カルロスが寄って来て言った。

「あそこで立ってる人、グレッグ・バレンタインのお父さんなんだって。」

「おめぇ、『グレッグ・バレンタインのお父さん』はねぇだろ! ジョニー・バレンタインってのはなぁ、この業界じゃぁなぁ…」

と思わず怒鳴ったかのような口調で返し始めながら、本人の方を振り向くと、自分自身のことを話してるのが聴こえてたのか、こっちをジロジロ見ていた。自分は即歩み寄った。

「いやぁ、まさかとは思ってましたが、そういえば今日は息子さんが参戦でしたね。自分は日本人で、アントニオ猪木の大ファンなんで、ここでお会いできるの、凄い嬉しいんですけど…」

すると、急に笑顔に変わった。

「俺は日本の団体全てに参戦したが、猪木は本当に偉大だと思うよ。」

「あれ、全日本にも行きましたっけ?」

「猪木のとこにも、馬場のとこにも、全部行った。日本は本当に大好きだ。」

確か全日には行ってないはずだけど、おそらく日プロ時代と混同してたんだろう。でも東京プロの流れで、国際には参戦している。要するに、1960~70年代の団体では全日以外の全てに参戦している貴重な存在だ。

まぁ、そんなことはどうでもよかったんで、緊張しながらも、しばらく話をさせていただいた。

そんなジョニーさんに会えたにも関わらず、『初めて会ったプロレスラー』でも書いたが、そういう時に限って自分はカメラを持っていなかった。リック・フレアーと一緒に乗ってたセスナが墜落し、足を負傷し、再起不能で引退して以来の松葉杖。実はもう一度だけ会場に来たことがあり、これまたカメラを持ってなかった自分は、再び後悔することになる。

その数週間後のある日、観戦仲間のPが、当時リングアナウンサーをやってた故マーク・ナルティの紹介で、ジョニーさんと会わせてもらえたらしい。色々なレスラー達のエピソードを語ってくれたそうだ。その晩、Pに会った時に話してくれた。

「色々語ってくれてるとさ、突然半分泣きそうな顔になって、『そういえばカール・ゴッチは酷かったよ。あいつは本当に痛めつけることを平気で試合中に仕掛けてきてたからね。』とか言うんだよ。あのジョニー・バレンタインが、まさかあんな情け無さそうな表情するとは、思ってもなかったよ!」

あのルー・テーズでさえもタフだと認めていたジョニーさんにそう言わしめたというのは、ゴッチは相当だったんだろう。

とにかく、写真やビデオなどで見てきた迫力、そしてそれまで聞いてきた数々のエピソードとは裏腹に、感じが良さそうな人だという印象ばかりが残ったジョニーさんだった。

RIP…


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