今尚NWAを追う(29) – 『Hard Times 2』

復讐に限界なし

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NWAは2021年8月下旬、かつて長年会長を務めたサム・マソニックのセントルイス地区のテレビ中継が1953年から30年間行われたチェイス・パーク・プラザ・ホテルにて、2大会をPPVで連日開催。 28日は『EmPowerr』と題するNWAとして初の女子選手のみによる大会で、NWAだけではなく、AEWAAAからも選手が参戦し、更にはインパクト・レスリング女子ノックアウト選手権試合も行われた。翌29日のNWA創立73周年記念大会『NWA 73』では、トレバー・マードックがニック・オルディスから世界ヘビー級王座を奪取、長期政権に終止符を打ち、ゲストとして来場していた元王者リック・フレアーも新王者を称えた。続く30日と31日には同会場で『NWA Powerrr』の収録も行われた。

NWA社長ビリー・コーガンは8月31日、シリウスXMラジオで放送中の『Busted Open Radio』に出演し、次回PPV『Hard Times 2: Revenge Has No Bounds (復讐に限界なし)』が12月4日に開催されることをを発表。会場は今やNWAの本拠地とも言えるジョージア州アトランタのGPBスタジオだ。

同日放送の『NWA Powerrr』では元インパクト女子ノックアウト・タッグ王者キエラ・ホーガンが現ZERO1・USA女子王者スカイ・ブルーと対戦。特別解説としてミッキー・ジェームスが放送席についた。試合中、フォールにいくべきところをホーガンが観客に対してアピールしていたためブルーをフォールすることができなかったことをジェームスが批判。ホーガンは最終的に勝利したものの、試合後実況席のジェームスに詰め寄り、「さっきの聞えたんだけど、なに失礼なこと言ってんの? 試合見たでしょ? ちゃんと勝ったじゃない!」と抗議。

9月14日放送分では、冒頭でのインタビューに登場した新世界ヘビー級王者トレバー・マードックが、前王者ニック・オルディスを呼び出し、「数ヶ月間抗争を続けてきた俺達だが、再びNWA王座に権威をもたらしたのはお前だ。」と、オルディスに敬意を表した。「ハーリー・レイスが生きていたら、お前に(レイスの真似をして)『坊主、よくやった。』と言ってたはずだ。」とマードックに言われ、マイクを渡されたオルディスは、かつてレイスの合宿に参加した際、色々アドバイスをくれたのがマードックであったことを述べ、最後に2人は握手を交わした。

「世界王者であったことは、自分の人生の中で栄誉だった。」と前王者ニック・オルディスが目に涙を浮かばす場面もあった。

同日には、世界タッグ王座挑戦者決定トーナメント1回戦で、『NWA 73』で王座から転落したばかりの前王者組アロン・スティーブンス & クレイトスが、エル・ルード & ジェイミー・スタンリーを破ったが、精彩を欠くスティーブンスとは裏腹に、試合はほぼクレイトスの独壇場だった。試合後のインタビューでクレイトスはスティーブンスに対し、「いつも自信がありそうな振舞い方をしているが、実はその裏には常に不安を抱いてきたのではないか。」と指摘。そして、「お前の中には『キラー』のような一面があることも知っている。それを見せてくれ。」と釘を刺し、その場を去った。それを受け、「これまで、最初の師匠であるキラー・コワルスキー以来、あんな言われ方をしたことがなかった。しばらく考える時間がほしい。」と答えるスティーブンス。

続いて行われたマーティ・ベルとパオラ・ブレイズの試合では、元WWE世界女子王者メリーナが解説を担当したが、試合直後、突如カミールが現れメリーナを攻撃。

メインイベントではクリムゾンと、ウォー・キングスでのタッグパートナーだったにも関わらず『NWA 73』での試合に乱入しクリムゾンを攻撃したジャックス・デインとの間でビンタ合戦が、トレバー・マードックを特別審判として行われた。何発か交わした後、デインがクリムゾンに蹴りを入れ、案の定乱闘が勃発。すると、冒頭インタビューでマードックと握手をしたはずのオルディスの仲間であるクリス・アドニスとトム・ラティマーも乱入し、マードックを攻撃。

9月28日の放送では冒頭で、解説を務める元世界ヘビー級王者ティム・ストームが、ストリクトリー・ビジネスのクリス・アドニス、トム・ラティマー、カミールにインタビューを試み、何故マードックやメリーナを攻撃したのか尋ねるが、「俺達に質問なんかしてるんじゃねぇ、この老いぼれ野郎。そういえば、以前もこんなことがあったよな。お前1人に、俺達が複数で。さて、どうする?」と詰め寄る。それを受けたストームはリングに上がり、ジャケットやネクタイを脱ぎ捨て臨戦態勢に入る。ストリクトリー・ビジネスの3人がリングを取り囲みストームを攻撃しようとしているところ、リーダーのニック・オルディスが止めに入ったため、3人は渋々リングを後にした。

10月4日、ビリー・コーガンは翌日の『NWA Powerrr』のメインイベントとして、なんとニック・オルディス & ティム・ストームとクリス・アドニス & トム・ラティマーの対戦を発表。オルディスは、コーガンからのこの試合を打診されたことについて、YouTubeで声明を出した。「最近のあの3人の行動は、確かに俺の代理としてのものだったのだろうが、俺が指示したものではない。これまでの我々ストリクトリー・ビジネスによるティム・ストームに対する行動や言動について弁解の余地はないが、ティムと俺がこのNWAの復興に努めてきたのも事実だ。世界女子王者カミール、ナショナル王者クリス、そしてやっと自分の持つ可能性に気付いて頭角を現し始めたトムの3人も、ティムと俺の活躍抜きでは、現在の環境も機会も与えられていなかったはずだ。今回対戦することにより、クリスとトムには現在の地位が彼らに相応しいということを証明してほしいし、試合後は握手で終わり、またこれまで通りのストリクトリー・ビジネスに戻ることができたらと思う。」

そして10月5日のメインイベントで両チームは対戦。ストームとアドニスが場外乱闘している間、オルディスがラティマーをフォール。コーナーに座り込み悔しがるラティマーにオルディスが手を差し伸べる。ストームと3人で握手をし、検討を称え合う3人だったが、アドニスが背後からストームに急所攻撃。アドニスに詰め寄るオルディスに、ラティマーも同様に背後から急所攻撃。2人は椅子を持ち出し攻撃を続けると、アドニスがストームをリング下に放り出し、2人はオルディスに集中攻撃を続けリング下に突き落とした。リング上でカミールを含む3人が勝ち名乗りを上げる中、リング下ではミッキー・ジェームスも駆けつけ、オルディスは自身の妻やストームに見守られながら担架で運び出される羽目となった。

10月5日放送分は、2019年10月8日に第1回目が放送された『NWA Powerrr』の2周年記念としてYouTubeで無料配信された。

10月12日の放送の最後、ミッキー・ジェームスが10月26日は女子選手のみによる放送となることを発表。するとインタビューの途中でキエラ・ホーガンが現れ、8月31日の放送でジェームスに抗議したことについて、「昔から貴方に憧れ、貴方を追っかけてこの世界に入ったのに、試合中に自分を批判していたのが聞こえたから、心が傷ついて、思わずあんな行動をとってしまった。」と謝罪。だが続いてジェームスに26日での対戦も要求したところ、ジェームスは、「こういう話は舞台裏の会議とかでするべきでしょ。こんなとこで独断で勝手にアングルをブッキングしないでよ。」と返される。ホーガンも「私と試合することが恐いの?」と言い返すが、ジェームスだけではなくインタビュー担当のカイル・デービスにも、「そういうのは、ここで話し合うべきではない。」と言われ、渋々退場。結局、後日2人の対戦は決定した。当日は、世界王者挑戦者決定3ウェイ戦がメリーナ、カイリー・レイ、そして元インパクト女子ノックアウト王者チェルシー・グリーンとの間で行われ、メリーナがチェルシーをフォール。世界王者カミールはノンタイトル戦でトゥーティ・リンを一蹴。メインイベントではジェームスがホーガンに勝利。

尚、10月27日には、コロナ禍前にNWAと提携関係にあったROHが、12月11日にメリーランド州ボルティモアで開催予定のPPV大会『Final Battle』を最後に、来年4月まで全ての活動を停止し、全選手との契約も解除することを発表。まさか全選手がAEWとインパクトに流れるとは思えず、NWAファンの間では一部選手達の参戦に対する期待が多少高まっているようだ。

皮肉にも活動休止発表のあった同日のROH大会で、NWA世界女子タッグ王者組ザ・ヘックス (アリシン・ケイ & マーティ・ベル)がザ・アリュール(アンジェリーナ・ラブ & マンディ・レオン)を倒し王座防衛。
WWEやAEWが観客を入れ始めた後も、ROHはPPV以外の通常放送を無観客のままで続けていた。

10月24日、ケンタッキー州オークグローブで、テネシー州クラークスビルに拠点を置くインディ団体TNTレスリングとの合同興行が開催された。COVID-19の影響によりTNTにとって2020年2月以来初となった同大会は、11月2日と9日の『NWA Powerrr』で2回に分けて配信された。ROH世界タッグ王者組OGK(マイク・ベネット & マット・ターバン)も出場し、ノンタイトル戦でザ・フィクサーズ (ジェイ・ブラッドリー & レッキングボール・ルガースキー)に勝利。セミファイナルでは、トレバー・マードックがニック・オルディスと組み、ストリクトリー・ビジネス (クリス・アドニス & トム・ラティマー)との遺恨試合で対戦、マードックがアドニスをフォールした。メインイベントでは、TNTのプロモーターでもあるクリムゾンがジャックス・デインと金網デスマッチで対戦。元ウォー・キングスのパートナー同士の決着戦は、デインに軍配が上がった。

メインイベント終了後、トレバー・マードックが金網が設置されたままのリングに戻りファンと記念撮影を行っていると、かつてWWETNAで活躍し、来日してIGFに参戦したこともあるマイク・ノックスが現れマードックを攻撃。NWA初登場のノックスだが、後日マードックの保持する世界ヘビー級王座への挑戦が決定し、防衛戦直後の王者をリング上で突如攻撃したら何故か挑戦権を得ることができたという、なんとなく日本の某老舗団体の選手権試合終了後を思い出させる(?)ような展開となった。

11月16日の放送では、世界タッグ王座挑戦者決定トーナメント決勝がジ・エンド(オディンソン & パロウ)とホークス・エアリー(ルーク・ホークスとP・J・ホークスの父子タッグ)の間で行われ、エンドが勝利し『Hard Times 2』での王座挑戦が決定した。

NWAは11月19日、『Hard Times 2』の出場選手を発表。全王座の防衛戦が行われる他、ニック・オルディスとトム・ラティマーの遺恨試合、そしてミック・フォーリーの来場も発表された。更には、なんと復活NWA世界ジュニアヘビー級王座決定トーナメントの予選として、NWA初登場の元ROHおよびインパクト世界ヘビー級王者オースティン・エリーズと、元ROH世界タッグ王者レット・タイタスとの対戦が決定。これまでの流れ通り、PPVの翌日から2日間におよび『NWA Powerrr』も収録されるが、PPVの前日には2022年1月8日から毎週YouTubeで無料配信予定の新番組『NWA USA』の第1回収録も行われることとなった。

https://twitter.com/TCO_BarrettB/status/1461868579847090177
世界ジュニアヘビー級王座トーナメント開催を受けて、現在『NJPW STRONG』で活躍中の前王者バレット・ブラウンは、「自分にトーナメント参加の打診がなかったことについての不満はない。時は流れ、新しい時代が来てるからだ。だが、本来なら自分が最終王者か、または現王者として紹介されるべきなのに、いずれでもない以上、機会さえ与えられたら『自分が失っていない王座』に挑戦してみたい。」と発言。

『Hard Times 2』開催を4日後に控えた11月30日、会場であるGPBスタジオの観客収容人数が90人に制限されることが発表された。GPBは『Georgia Public Broadcasting』の略で、その名の通りジョージア州の公共放送であるため、オミクロン株の感染予防のため人数制限するという州政府の決断に従う必要があり、ただでさえ収容人数約250のところが、空席も目立ち、更に小規模に見える結果となった。既にチケットを買っていた観客には払い戻しされることも発表。

試合結果 (左側が勝者、最初の3試合はYouTubeで無料配信):
※ 選手権試合は全て王者が防衛。

  • ミムス (6:01) ジャックス・デイン
  • 世界女子タッグ選手権(4ウェイ): ザ・ヘックス [アリシン・ケイ & マーティ・ベル] (6:34) ジェナサイド & パオラ・ブレイズ、 カイリー・レイ & トゥーティ・リン、ミッサ・ケイト & ナタリア・マルコバ
  • 12人参加ガウントレット戦: ホミサイド優勝 (21:30)
  • 世界ジュニアヘビー級王座決定トーナメント予選: オースティン・エリーズ (9:03) レット・タイタス
  • ROH世界タッグ選手権: OGK [マイク・ベネット & マット・ターバン] (10:57) アロン・スティーブンス & クレイトス
  • コルビー・コリノ (8:46) ダグ・ウィリアムス
  • インパクト女子ノックアウト選手権: ミッキー・ジェームス (8:46) キエラ・ホーガン
  • 世界テレビ選手権(反則負けなし): タイラス (15:54) サイオン
    ※ ザ・ポープが特別レフリー。
  • ナショナル・ヘビー級選手権: クリス・アドニス (10:53) ジュダイス
  • 世界タッグ選手権: ラ・レベリオン [ベスティア666 & メカ・ウルフ] (10:57) ジ・エンド [オディンソン & パロウ]
  • ニック・オルディス (11:16) トム・ラティマー
  • 世界女子選手権: カミール (12:42) メリーナ
  • 世界ヘビー級選手権: トレバー・マードック (8:15) マイク・ノックス
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メインイベント終了後、なんとマット・カルドナがリングサイドに登場。昨年春コロナ禍の影響によりザック・ライダーの名で15年所属したWWEを解雇されたカルドナは、夏の短期間AEWに参戦したが、今年に入ってからインパクト、そして夏にはGCWに出場し、以来その2団体を中心に米国インディ界で大活躍中。一瞬マードックの王座防衛を祝いに来たかのように見えたが、案の定ノックスと共にマードックを攻撃。ザ・ポープがマードックの応援に駆け付けたが、カルドナにリング下の階段にぶつけられ負傷。ノックスと共に再度リング内に戻りマードックを攻撃すると、NWAのベルトを手に取り見つめながら、リング中央に倒れるマードックの上に置いてリングを去った。

https://twitter.com/TheMattCardona/status/1468682954541051914
先日はとうとう「俺にとってWWEは養成所だった。」とも発言したマット・カルドナ。

12月7日の『NWA Powerrr』では、ニック・オルディスが日本でもお馴染みの英国プロレス界の重鎮ダグ・ウィリアムスを呼び出し、ブリティッシュ・インベージョンの再結成を提案。早速対戦相手に決定したホークス・エアリーは、親子ので世界ジュニアヘビー級王座決定トーナメント参加を表明するものの、今回はブリティッシュ・インベージョンとの試合に専念すると宣言。だがインタビュー中、JTGがダーティ・ダンゴ(元WWEのファンダンゴ)を連れて登場し、エアリー親子を挑発、元WWE選手同士の新チーム誕生となった。メインイベントではウィリアムスがルーク・ホークスをジャーマン・スープレックスでフォールし、ブリティッシュ・インベージョンが勝利。

TNAおよびIWGPタッグ王者組が再結成。

12月14日の放送では、ジェームス・ミッチェルがジュダイスを連れてインタビューに登場。『Hard Times 2』でのナショナル選手権試合でのレフリーによる裁定に対する不満を述べていると、サル・リナウロが不気味な笑顔で現れ、仲間入りを志願。前世界タッグ王者組アロン・スティーブンス & クレイトスは、ダーティ・セクシー・ボーイズ (JTG & ダーティ・ダンゴ)を倒し、試合後のインタビューでクレイトスは、「(スティーブンスが)やっと、狂気を取り戻してくれたようだ。」とコメントした。その後、再度ジェームス・ミッチェルとジュダイスが現れ、サル・リナウロに門下となるための試験として、リング上でジュダイスの前に跪いて犬のように吠えさせ、靴にキスをさせ、更にはチョークスラムを受けさせた。そして『最後の試験』として、リング下でワイングラスの中に用意していた『獣の血』を飲ませた。

とりあえず『入門試験』を全て通過したサル・リナウロだが…。

また同日はミッキー・ジェームスが、『Hard Times 2』での対戦相手キエラ・ホーガンをパートナーに抜擢し、ザ・ヘックス(アリシン・ケイ & マーティ・ベル)の保持する世界女子タッグ王座に挑戦。ケイがホーガンをフォールし王座を防衛すると、ストリクトリー・ビジネスのトム・ラティマーとカミールがリング下に来てジェームスをからかい始める。その後、ホーガンはジェームスに対し「貴方に指図された様にやっていたのに負けたじゃない!」と叫びながら退場。

メインイベント前に行われたマイク・ノックスとマット・カルドナのインタビューでは、NWAに来た目的は何かという質問に対して、「マイクは長年の友人だし、ここには俺の婚約者チェルシー・グリーンもいるから顔出してるだけだ。」、そして『Hard Times 2』での試合後にマードックのベルトを手に取っていたことについての質問には、「本当に10ポンドなのか確かめたかっただけだ。」と惚けてみせるカルドナ。一方ノックスは、対戦予定だったザ・ポープが『Hard Times 2』終了後の攻撃により負傷欠場のため、その代わりとして「誰の挑戦でも受ける」と宣言。ポープの仇討ちとしてミムスが挑戦するが、善戦むなしく敗れた。カルドナは笑顔でノックスの手を上げながら退場。

WWE解雇により大ブレイクしたマット・カルドナの今後の動向は?

タッグ戦線が充実しつつある中、ブリティッシュ・インベージョンの世界王座挑戦は?

ミッキー・ジェームスとキエラ・ホーガンの関係は?

ROH活動休止によりNWAに流れてくるのは?

復活世界ジュニアヘビー級王座に就くのは?

それ以前に、本当に今のNWAに王座を増やすことが必要なのか? (笑)

まだまだ目が離せないNWAなのである。


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