今尚NWAを追う(26) – 攻撃再開

起死回生なるか。

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2020年、世界を混乱に陥れたCOVID-19。当然のことながら、米プロレス界における影響も大きかった。

WWEが毎年春に開催する、世界最大のプロレスイベント『レッスルマニア』は、その数日前から多くの他団体による大会が目白押し。だが、米国の大半で外出自粛令が出され、レッスルマニアがフロリダ州タンパのレイモンド・ジェームス・スタジアムからオーランドのWWEパフォーマンスセンターでの無観客大会になると、タンパでイベントを計画していた各団体はキャンセルせざるを得なかった。準備費用が無駄になったなどの理由で、それ以降運営継続が困難になったり、マニア前に興業を予定していなくても完全に閉鎖した小規模団体が続出したという。

NWAは、レッスルマニアから約2週間後の4月19日にROHとの共催でタッグトーナメント『クロケット・カップ』を予定していたが、これもまた中止となった。当然、YouTubeで毎週火曜夕方に放送していた『NWA Powerrr』の収録も中断。世界ヘビー級王者ニック・オルディスも、プエルトリコやフロリダなどNWA以外の防衛戦が3度予定されていたが、全てキャンセル。

試合を収録できなくなったNWAは5月、YouTubeで臨時代理番組として選手やスタッフらによるトークショーやコメディを中心とした『Carnyland』、女子選手達によるトークショー『Girl Powerrr』の配信を開始。『Girl Powerrr』の初回はネット上のいじめが主なトピックで、番組冒頭ではNWA世界女子王者で東京女子プロレスのインターナショナル・プリンセス王座も保持していたサンダー・ロサが木村花への想いを涙ながら語った。

当面はネット番組の配信を続けることによって活動を継続すると思われていたNWAだったが、思わぬところに落とし穴があった。

2017年秋頃、性的暴行撲滅を訴える目的でSNSで始まった『#MeToo』運動。そのプロレス版とも言える『#SpeakingOut』(=声を上げる)運動が2020年5月から広まった。多くの選手達が業界内での被害体験をツイッターを中心に告白。その結果、告発された選手やスタッフ達が団体から契約を解除された。

NWAのデビッド・ラガナ副社長もその1人だった。ラガナは告発を否定しながらも、「NWAの将来に悪影響を及ぼしたくない」という理由で6月19日付で自ら辞任。映像制作を手掛けていたラガナが退社したことにより、NWAは全番組の配信を中断することを発表。以後、NWAは約3ヶ月の沈黙期間に入る。

また、1月にマーティ・スカルがROHのブッカーに就任したことにより再度提携した両団体だったが、そのスカルも『#SpeakingOut』運動の中で告発され、事実上NWAは再びROHとのパイプを失ってしまう。スカルは2021年1月、正式にROHと契約解除。

8月10日、『NWA Powerrr』でインタビュアーを務めていたCWFHのデビッド・マルケスが、NWAと共同の新番組『UWNプライムタイム・ライブ』を毎週PPVで配信することを発表。カリフォルニア州ロングビーチにて無観客での放送で、9月15日に開始した。新日本プロレスがロサンゼルス郊外から配信している『NJPWストロング』をマルケスが担当していることから、同番組出場選手数名も参戦。初回放送では、ニック・オルディスがROHや新日本プロレスでも活躍したマイク・ベネット、9月22日にはサンダー・ロサがプリシラ・ケリーを相手にそれぞれ世界王座を防衛した。だが『UWNプライムタイム・ライブ』開始から1ヶ月半の間に、世界ヘビー級王座以外の全てのNWA王座が移動するという意外な展開となっていく。

9月29日には元WWE世界タッグ王者トレバー・マードックがアロン・スティーブンスからナショナル王座を奪取。10月20日にはイライジャ・バークが世界テレビ王者ジッキー・ダイスに勝利。

10月27日には、かつてWWEでC・M・パンクの子分的な役で活躍し9月にAEWと契約したばかりのセリーナ・ディーブが、サンダー・ロサを破り世界女子王座を奪取した。以降ディーブはAEWの中継でNWA王座を4度防衛している(2021年3月24日現在)。

11月3日、アロン・スティーブンスが、世界タッグ王座を保持するジェームス・ストーム & イーライ・ドレイクに翌週の放送で挑戦することを宣言。パートナーはもちろん、NWAの名物男と化していたザ・クエスチョン・マーク。

だが、翌週11月10日の放送で、スティーブンスが「こいつが(覆面選手の)クエスチョン・マークでないという証明はできないだろ」と、パートナーとして紹介したのはJ・R・クレイトスだった。2月に全日本プロレスに参戦したが、11月に入り『NJPWストロング』に初参戦したばかりの選手だ。スティーブンス & クレイトスはストーム & ドレイクを破り世界タッグ王座を奪取。COVID-19の影響でクエスチョン・マークが参戦できなかったというのが、多くのファンの間での推測だったが…。

これで『NWA Powerrr』収録再開まで、しばらくつなげることができると思われていたが、なぜかその後、NWAの選手達が出場することはなかった。そして、COVID-19感染増加に伴いカリフォルニア州政府は12月6日深夜から再び外出禁止とすることを発表。その結果、『UWNプライムタイム・ライブ』も12月1日の放送が最後となった。

また、活動停止になって以来、多くの選手達がNWAを去っていった。マーティ・ベルと元世界女子王者アリシン・ケイはフリーに。元世界タッグ王者ロイス・アイザックスもフリーになったが2021年3月からはAEWに参戦。前世界タッグ王者のジェームス・ストームは古巣のインパクト・レスリングに復帰。元世界テレビ王者ジッキー・ダイスはNWAの体制を批判しながらの契約解除だった。11月には、ラガナと共に裏方の中心的な存在だったモーリン・トレイシーも退社。

だが、多くの離脱の中でもNWAにとって最大の打撃は、2021年2月に次期世界ヘビー級王者候補だと言われていた前世界タッグ王者イーライ・ドレイクがWWEと契約し『L・A・ナイト』の名でNXT入りしたことだろう。実際には、2020年末に契約解除をNWAに申し出て受諾されていたらしいが、多くのNWAファンにとってはショッキングなニュースだった。

更に2月24日には、選手やスタッフの離脱とは比べ物にならない程の悲報がNWAに訪れた。ダッチ・マンテルがツイッター上で、ジョセフ・ハドソンの死を報告したのだ。

https://twitter.com/DirtyDMantell/status/1364816070331269122

『NWA Powerrr』ではプロデューサーの1人でもあったハドソンだが、奇怪派の『ジョセファス』または似非空手家『ザ・クエスチョン・マーク』として、マニアックなファンの間では人気選手だった。NWA社長のビリー・コーガンとは、コーガンが2011年から2014年にかけて経営者の1人として名を連ねていたシカゴのインディ団体レジスタンス・プロレスリングに、ジョセファス・ブロディとして参戦していた頃からの仲だった。脳溢血か動脈瘤が原因だという説があり、誰もが予想していなかった突然の死だと言われている。SNSにはNWAの選手やスタッフはもちろん、AEWのマット・ハーディー、WWEのアダム・ピアースやドレイク・マベリックなど多くのプロレス関係者が追悼を投稿。そしてデビッド・ラガナもNWA退社以来の数ヶ月に及ぶ沈黙を破った。10歳の息子を支援する目的で始まったクラウドファンディングには、これを書いている時点で目標額の$15,000の倍を上回る$35,800も集まっている。

その3日後の2月27日、NWAのYouTubeチャンネルから、全ての映像が消えるという『事件』が起きた。選手の大量離脱やハドソンの死に続いた出来事だったのでファンの中には絶望の声もあったが、コーガンは過去にも『仕切り直し』の意味でスマッシング・パンプキンズのチャンネルから映像を削除したことがあるらしく、再始動の予感としてとらえたファンもいた。

そして3月2日、NWAは格闘技動画配信サイトFITE.tvとの正式な提携、および21日にPPV『Back for the Attack』が放送されることを発表。また、23日からは『NWA Powerrr』がFITE.tvで以前と同じ毎週火曜午後6:05から配信されることが決定。
※ だがちょっと残念なのは、ただでさえYouTubeのチャンネルの動画がなくなったのに、『NWA Powerrr』は毎月$4.99のパッケージ料金になるらしく、今後このブログに映像を埋め込んでも、これまでのように無料で視聴できなくなってしまうということだ。

ジョセフ・ハドソン追悼の意味も込めて、メインイベントでは、世界ヘビー級王者オルディスに、ザ・クエスチョン・マークのタッグパートナーだったアロン・スティーブンスが挑戦。セミファイナルは世界女子王者セリーナ・ディーブが膝負傷のため、前王者サンダー・ロサとカミールとの間で挑戦者決定戦が行われることになった。今回初登場するのは、タイラス(元WWEのブローダス・クレイ)、クリス・アドニス(元WWEのクリス・マスターズ)、またCWFHを中心にカリフォルニア州南部で活動で活動しているジョーダン・クリアウォーターやスライス・ブギ。だが、そのCWFHのデビッド・マルケスは降板、SNSに「今後NWAでの活動はなくなるだろう」とも投稿。元々ラガナとの関係によってNWAの番組制作にも加わっていたので驚くことでもない。本人は今回「NWAから声がかからなかった」ので、多少残念だという様子だが、NJPWストロングの制作だけではなく、自身のブランドUWNにも今後更に専念していくことだろう。

3月21日、『NWA Powerrr』の収録で使われてきたアトランタのGPBスタジオでPPV『Back for the Attack』開催。実況はこれまでどおりジョー・ガリ、解説には元世界ヘビー級王者ティム・ストームと元インパクト・ノックアウト王者タリン・テレルがそれぞれ担当。無観客、段どりの悪さ、その上会場を盛り上げるための極数人のスタッフによる声援など、安っぽさ満載だったが、試合自体はファンの間では好評だったようだ。実際、今の限られた面子を考慮すると、悪くなかったのではないだろうか。

試合結果 (左側が勝者):

  • 4ウェイ戦: スライス・ブギ (5:41) ジャックス・デイン [元世界ヘビー級王者]、クリムゾン、ジョーダン・クリアウォーター
  • タイラス (7:27) J・R・クレイトス [世界タッグ王者]
  • 世界テレビ選手権: イライジャ・バーク (10:05 時間切れ引き分け) トーマス・ラティマー
    ※ バークが王座防衛。
  • 世界女子王座挑戦者決定戦: カミール (14:04) サンダー・ロサ
  • ナショナル選手権: トレバー・マードック (8:38) クリス・アドニス
    ※ マードックが王座防衛。
  • 世界ヘビー級選手権: ニック・オルディス (21:29) アロン・スティーブンス
    ※ オルディスが王座防衛。
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メインイベント終了後には、全選手がリングに上がりジョセフ・ハドソンへを追悼。スティーブンスはクエスチョン・マークのマスク、ハドソン夫人はクエスチョン・マークが出身としてきた架空国『モングロビア』の国旗をそれぞれ掲げた。

https://twitter.com/FiteTV/status/1373755880370540554

2日後の3月23日には復活『NWA Powerrr』第22話が放送。解説にはタリン・テレルではなく、これまた元インパクト・ノックアウト王者のベルベット・スカイが加わった。また、スタジオには各国の旗がぶら下げてあるが、今回から『モングロビア』の国旗も加わった。

ロイス・アイザックス離脱により、オルディス、ラティマー、カミールの3人になった『ストリクトリー・ビジネス』。メインイベントは6人タッグマッチで、スティーブンス & クレイトスの世界タッグ王者組に世界テレビ王者バークを加えた3人と対戦予定だが、番組冒頭のインタビューでは新パートナーは発表されず。

当日は、世界テレビ王座挑戦者決定3ウェイ戦も行われ、NJPWストロングで活躍中のフレッド・ロッサ―(元WWEのダレン・ヤング)がマット・クロスとマルシェ・ロケットに勝利。

メインイベントの6人タッグでは、オルディスとラティマーのパートナーとしてクリス・アドニスが登場。試合中、攻撃を受け続けたスティーブンスがパートナーであるクレイトスではなくバークにタッグしたことから、クレイトスが不満を見せ始める。最終的には、クレイトスが椅子でアドニスを攻撃しようとしたところ、スティーブンスがその椅子を取り上げ、背を向けたクレイトスをアドニスがフォール。完全に仲間割れをしたわけではなかったが、世界タッグ王者組の間に不穏な空気が流れた。

1度も防衛してないにも関わらず既に関係が危うそうなタッグ王者組のスティーブンスとクレイトスは長期政権を築けるのか?

ラガナやモーリン、マルケスが抜け、段取りの悪さが目立つ中、制作面での改善は見られるのか?

それ以前に、全てを有料にしたNWAに今後ファンが増えていくのか?

まだまだ目が離せないNWA……だと、せめてもうしばらくは思っていたいのである。


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